夜明けの星07

 
「……きゅ」
 
白い蝙蝠姿でお手製のクッションに沈みうとうとしていたシェスはのそりと顔を上げた。
窓の外は日が沈みかけている。
もうすぐ夜が来る時間だ。
きょろきょろと部屋の中を見回すが、ノウの姿は見えない。
 
「きぃ~!」
 
一声鳴いてみるが、返答はない。
あの子供はシェスの蝙蝠姿を気に入っていて一声鳴けばすぐによってくるはずなので、多分近くにはいないのだろう。
まだでかけているのかもしれない。
 
もともと真面目なノウは、依頼に連れて行っても危険だからやめろと言ったことは決してしなかったし、疑問があるときはシェスにしっかり質問し、鍛錬も懸命に励んでいる。
だから、たまには労ってやろうとシェスは今日ノウにそれなりの小遣いを渡した。
嬉しそうに顔を綻ばせる様子に胸の奥がざわついたが、シェスはそれを反射的に握りつぶした。
 
(…はーっ、どっかでまた絡まれてるんじゃねーだろうなァ)
 
探しにいくか、それとも待つか、蜂蜜色の瞳を揺らして考える。
何かにノウが絡まれている程度なら軽く牽制すればすむだろうし、状況が酷ければ肉塊をつくって食べてしまえばいいだけだ。
自分にとって不都合なものを切り裂いて鉛玉を撃ち込むことを、今では何も思わないどころか愉快ですらある自分はおかしいのだろう。
だというのにその場面をできればノウに見せたくないと思っている自分には嘲笑しか浮かばないが。
人を疑うことを知らなさそうなぽやっとした顔を脳裏に浮かべて顔を顰める。
 
(だいたいなァ、あいつぼんやりしすぎなんじゃねーか?)
 
目を離すと財布がわりの革袋をスられかけ、あきらかに頭のヤバそうな――自身のことは棚に上げているシェスである――男や女がいそうな路地裏に迷い込み、なにもないところで何故か転ぶノウである。
見ていて飽きないが、人間だったころのシェスだったら頭を抱えて苦い顔をしながら保護するのに躍起になっていただろう。
なにせ人間だった頃のシェスは今よりずっと弱かったし、腹芸なんて全然できなかったので、弟分や妹分を守るのも一苦労だった。
その頃をうっかり思い出してしまったシェスは胸をかきむしりたくなる衝動に白い体躯を震わせる。
 
人間だった頃と違って、今はほんの少し早く走って、ほんの少し腕をうごかすだけで簡単に場を抑えることができるのは悪くない。
辺り一面紅く染まることになるかもしれないが、それもまあ仕方ない。
自分は"そういうもの"だから。
 
(この街で、大暴れしたら、あれもこれもぐっちゃぐちゃになるんだろうなァ、はは…)
 
人の姿だったら仄暗く嗤っていたかもしれないが、生憎今は丸みのある白い蝙蝠の姿のせいか、ふと浮かび上がった加虐心はすうっと意識の底に沈んでいった。
蝙蝠の姿のときは人の姿に比べてシェスの激しい感情はほんの少しだけ静かになる。
獣の姿になると複雑な思考ができなくなるのが原因かもしれないが、詳しい理由はわからない。
 
ころころとクッションから転がって移動し、ちょこんと机の端に座る。
相変わらずこの姿は消費するエネルギーが少なくていい。
少量の血液でもこちらの姿ならまだ問題なく動けるし、人の姿だと良くも悪くも目立つのでシェスはこの宿に身体を落ち着けてからはノウの鍛錬をみるときや、依頼で忙しい時をのぞいて蝙蝠の姿で毎日を過ごしていた。
ついでにノウが嬉しそうにぺたぺたしてくるが、たいして不快じゃないので好きにさせているシェスだが、ノウの危機感のなさに呆れているのも事実だ。
 
(ぺたぺたぺたぺた触りやがって…。あいつ、俺がなんなのか本当にわかってんのか?)
 
蝙蝠の姿ではなく人の姿で背中の羽根をばさりと広げ、自身が人ならざるものだということを思い知らせたというのに、ノウはおっかなびっくりとはいえシェスから手を離さず、あろうことか人の髪をつまんだり――馬車の移動でノウが自分の髪を掴んでいたのは知っていたが好きにさせた――、宿に落ち着き始めると今度は蝙蝠姿のときに触ってもいいかと聞いてくる始末だ。
おどおどと気弱な性質の割に、あの子供は距離の詰め方がえげつない。
内心面食らったシェスが、意地悪く皮肉と嘲りを混ぜ込んだ言葉を紡ぐことを忘れ、ぽかんと口を開けてしまったのも記憶に新しい。
 
―――カタンッ。
 
階下で聞こえた物音に、真っ白な耳がぴくっと動いた。
ノウが帰ってきたのかもしれない。
すぐに部屋に来ないところをみると、もしかして早めの夕食をとっているのだろうか。
 
(…何だ。ようやく一人で食べる気になったのか。ま、俺としてはありがたいぜ)
 
ノウはシェスと食事をとりたがったが、血以外にたいして味覚が機能しなくなった自分にとって、人と食事を摂る時間は無意味なものだった。
食事を取らず、ノウが食べながらたどたどしく話をするのを聞くぐらいならしてもいいが、シェス自身に何かを食べろと言われればそれを静かに拒絶した。
野菜を、肉を、果物を、嗜好品を口に含むたび、現実を突きつけられることはシェスにとって苦痛でしかなかったからだ。
昔は誰かと食事を摂るのがとても好きだったのに。
 
「キィ」
 
ぷるぷると身体を震わせて、ばさっと白い翼を広げ机から飛び降りる。
白い霧がふわりと室内に広がり、霧が晴れるころには白い蝙蝠が端正な顔立ちの青年に姿を変えていた。
白銀の髪をしゃらりとゆらしながら室内を歩いて扉に手をかける。
扉を開ければ階下から話し声が聞こえてくるが、ノウの声を拾うのはシェスでも難しい。
今日は室内でまどろんでいる気だったシェスだが、気まぐれに出迎えるのもまたいいかと下に降りることにした。
 
「……まーた、絡まれてたら面倒だしなァ。様子を見に下に降りるとするか」
 
どこか言い訳がましいシェスの言葉は大きな独り言として片付けられるだけだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あっ!シェスさん、もう起きたの?えっと、えっと、はやいね…!」
「おう、目が覚めたからな」
「そ、そうなんだ。おはよう、シェスさん」
「おー。……何だお前、なーんか、挙動が怪しいな?」
「えっ!!そ、そんな、そんなことないよ!!」
 
宿の食堂入口に目当てのちいさい頭を見つけて声をかけたはいいが、件の相手は何故か慌ててシェスの前に寄ってきた。
訝しげに見下ろすとノウの挙動不審ぶりに拍車がかかる。
 
「…ほー?」
「うう…」
「……まあ、いいか。おかえり」
「えっ」
「……あ?」
 
食堂内で逢引でもしてたのか、と揶揄してまたいじめてやろうと開いた口から、反射的にぽろっとこぼれた言葉にシェスは内心呆然とした。
おかえり、だなんて。
まるで、あのころのような言葉を口にした自分が理解できない。
ノウのおどろいた顔が視界に映って忌々しい。
何だその顔は、と頬を抓ってやろうかとシェスが不機嫌そうに蜂蜜色の瞳を歪めた矢先。
 
「う、うん!ただいま、シェスさん」
 
ノウがまだ成熟しきっていない丸みを帯びた頬をうっすら紅潮させて嬉しそうに笑うせいで、シェスは動きを止めることしかできなかった。
居た堪れず、さっさと話題をそらす。
 
「チッ…。飯はくったのかよ」
「ま、まだだよ」
「まだ食ってなかったのか。じゃあ、あれか。今、帰ってきたところか?」
「ううん、えっと、一時間前ぐらいに帰ってきたよ」
「はァ?じゃあ今までなにやってたんだよ」
「そ、それは~、ええと~…。あの、あの、もうちょっとだから、まってて、まっててください!」
「…もうちょっと?」
「まってて!」
「おい、人の背中をぐいぐいおすんじゃねぇ!お前、ひよこちゃんのくせに、俺に指図する気か…アア゛?」
「ひえ…っ!」
 
見下ろして凄むと、ふるふると震えるが、それでもぐいっとシェスを押し戻して中に入れようとしないノウ。
すぐビクビクと怯えるわりに頑固なのは、ともに過ごすようになってからわかってはいたが今日はそれが顕著である。
 
ちらっと見えた食堂内に人はおらず、どうやらノウしかいないようだ。
しかし一体何をやっているのかまでは把握できなかった。
おねがい、おねがいと何度も言われ、しばらくしてやってきた宿の亭主にも促されれば、結局折れたのはシェスで。
軽く舌打ちをしながら食堂に立ち入るのを断念せざるを得なかった。
 
程なくしてノウが――何故か申し訳無さそうに――自分の袖をひいて中に入るのを促してくる姿に、シェスは遠い昔、自分よりも小さな誰かたちに袖をひかれた景色を思い浮かべて、ノウが気づく間もないほんの一瞬だけぼんやりとした顔をした。
 
「―――で?何で俺の目の前に崩れた目玉焼きが乗った焦げたパンが置かれてるんだ?」
 
カウンターに座らされ、ノウが向かい側から背伸びをしてコトリと目の前においたのは目玉焼きが乗せられたトーストと思われるものだった。
パンは焼きすぎて黒ずんでいるし、目玉焼きは型崩れをしていてパンの上を縦横無尽に駆け巡った挙げ句、皿に溢れている。
訝しげにノウとそれを交互に見たシェスは、今になってノウが普段着の上にエプロンを付けていることに気がついた。
サイズがあっていないのとところどころ解れがあるのが気になるが、それよりもなぜノウがエプロンを付けているかが今は気になった。
 
「え、ええと、ええと…」
 
じっとノウを見つめていると、視線に居た堪れなくなったのかエプロンの裾をグイーッと引っ張って俯く。
内気でおとなしい気性のノウだが、表情は思いの外くるくる変わるし仕草はいつも素直でわかりやすい。
からかってやろうかと口を開いたシェスを遮ったのは、ノウとは違う低い男の声だった。
視線をずらせば、ノウを見守るように亭主がそばにいたことに気がつく。
 
「お前さんにつくりたかったんだと。わざわざ小遣いをはたいて食材まで買ってきて練習させてくれと言われたんだぞ」
「練習」
「本当、お前さんのそばにいるのに随分と素直なもんだ」
 
ぼんやりとシェスの視線が泳ぎ、浮かべていた皮肉交じりの笑みがふっと消えそうになる。
だが、すぐさま顔に笑みをこびりつけて冗談交じりに憎まれ口を叩いた。
 
「ああ?なんだ、親父いたのか。気づかなかったわ」
「こいつは…。ずっとおっただろうが!」
「俯いてるヒヨコちゃんを見るのに忙しくてなァ、ヒヒヒ!」
「ひ、ひよこじゃないよ!」
「ひよこ、ひよこ~」
「うううええ…!」
「――にしても、料理、ねぇ…」
 
焦げたパンと形の崩れた目玉焼きの残骸をもう一度見つめる。
癪ではあるが、まあ、シェス自身が作ったものよりまだ料理に近いと言える。
自分のために―――なかば誘拐に近い形で連れ去った―――子供がつくった温かい料理。
 
「なあ、ひよこちゃん」
「う、うん」
「俺は、言ったよな?」
「えっ?」
 
酷く。
 
「――ヒトの食いもんは味がしねぇって」
 
胸がざわついた。
 
首を傾げて艶やかにゆったりと嗤いながら、柔らかい声が薄い唇から漏れる。
普段の荒っぽい口調ではあるがどこまでも優しそうな表情と声色は、シェスとあまり交流のない者が聞けば、まるで歓喜と好意に満ちたものに聞こえただろう。
整った端正な顔立ちが浮かべる微笑みに見惚れたものもいたかもしれない。
 
「……っ、…」
 
しかし、いつもシェスを見ているノウには違う感情が見えた気がした。
 
(あっ、シェスさん、怒って、る…?それから、なんだか、悲しそうな、気がする…。またおれの勘違いかな…)
 
シェスが笑顔以外の表情を浮かべることは極稀で、それも明確な感情がみえるようなものではなく、逆にすべての感情が抜け落ちたかのようなぼんやりとした幽鬼のような顔だけだった。
シェスはいつも嗤っている。
楽しそうに、いつも嗤っている。
ノウが食事をとっているときも、ノウが剣で訓練しているのを見ているときも、買い物をしているときも、夜にどこかにふらりと出かけるときも、錆びた鉄の匂いを微かにさせて帰ってくるときも、その際手当が必要さな怪我をおっているときも。
いつも、楽しそうに嗤っている。
今もそうだが、今日でかける前に感じた違和感より、強い感情の揺れをノウは感じた気がした。
 
「おい、シェス…。坊主ががんばってたんだから労ってやるぐらいな…」
「親父はだまってろ」
「おい!」
 
亭主の咎める声とシェスの普段より棘のある声が遠くに聞こえる。
 
「なあ、ひよこちゃん」
「う、うん」
「俺は、言ったよな?言っただろ?味がしないって、なあ、忘れたのか?」
「わ、わすれて、ない」
「それともお前は、今からそれの上にお前の血をぶちまけてくれるのか?」
「―――っ!」
 
柔らかい声にじわじわと滲む怒気と、三日月に歪んだ瞳がノウを見据える。
白い睫毛と蜂蜜色の瞳は、ゆらゆらと揺れていて。
自分は目の前のこの人を傷つけてしまったのかもしれないと思うとノウの心臓がきゅっとなった。
じんわりと細い瞳が滲んでくる。
 
「………」
 
滲む視界、揺れる瞳をみせたくなくて俯いたノウは、シェスの笑みがゆっくりと抜け落ちてどこか戸惑いと苛立ちが浮かんだことに気が付かない。
 
「あ、の、ごめんなさ…」
「お前、俺がやった小遣いでこれを買ってきて、つくったのか」
「えっ、うん…」
「じゃあ、このまま放り投げると俺とお前の金が無駄になるわけだ」
「あ、あ、う…」
「……しかたねぇから、食ってやるよ」
「えっ」
 
シェスは目の前の焦げた料理をさっと口に入れる。
じゃりじゃりとした音がして、あからさまにシェスが顔をしかめたのでノウはようやく自分がつくった料理があまり成功していなかったことを思い出した。
 
「しぇ、シェスさん、あの、一口で、いいよ!あまりうまくできなくて、ご、ごめんなさい、やっぱり、むりにたべない、で!」
「うるせえ」
「で、でも…」
「どうせ、まずかろうかうまかろうが味がしねぇんだよ。処分したら金がもったいねぇだろ」
「う、うう…」
「焦げくせぇし、すげぇ口の中ジャリジャリするし、目玉焼きぐっちゃぐっちゃだなァ」
「うええ…っ!」
 
容赦ないシェスの批評にさらにノウの視界が滲む。
亭主が見咎めて何か言おうとするよりも先に、シェスはノウへぽつりと問いかけた。
 
「料理、たのしかったのか」
「え…」
「楽しかったのか」
「…うん」
 
失敗してしまったが、料理は楽しかった。
不器用ながらも丁寧に食事を作るノウに、亭主も根気よく教えてくれたし、失敗してしまったとはいえ自分で何かをつくりあげることはとても充実した気持ちを抱かせてくれた。
 
「じゃあ、勝手に練習すりゃあいい」
「練習…していいの…?」
 
もう料理はするなと言われると思っていたので、シェスの言葉にノウは眼を丸くした。
 
「お前が食いたいもんを自分でつくんのは別に止めやしねぇよ。好きならやりゃあいい。くく…、まあ、あれだよ。俺がつくったもんを食べたいなら、いいけ」
「がんばる!!がんばって上手になります!!!!」
「この野郎食い気味に遮ってきやがった」
「お前さんの料理は食った相手の心身をぶちこわすからな」
「んだと、コラ。黙れクソ親父!!」
「こいつ…!」
「あ、あの、シェスさん」
「アア?なんだよ」
「今度は、小皿に少し分けるね…!」
 
ノウが放った言葉が理解できなくて、シェスの瞳が丸くなり、そのままじわっと不機嫌そうに歪んだ。
 
「……あ?」
「だから、えっと、その、また、味見してくださ…うわぁっ!」
 
まだ自分に食べさせることを諦めてなかったとしって、不機嫌さを隠さず嗤いながらノウの頭をガシッと掴む。
 
「お前、俺の話を聞いてたのか?お前が食うぶんにはいいとはいったが、俺に作れとはいってねぇだろ。あれか、もしかして、このひよこみたいな頭の中にはなーんにもつまってねぇのか?アア??」
「あ、ああうう!い、いつ、」
「アア?」
「いつか味がするようになるかもしれない、から…!」
 
頭を鷲掴みにされているのに、訴えをやめないノウにシェスの指が強ばる。
 
「ちょっとだけでいいから、おねがい、します…うう…」
「――なんで」
「――、だって」
「だって、なんだよ…」
「だって、おれ、シェスさんと、ごはんたべたい、です」
「――――――、――――――」
 
思わずぐりぐりと小突いていた手がとまる。
 
「いっしょに、おいしいごはんをたべて、あしたはなにしようって、おはなししたい、から」
 
まっすぐ見つめてくるノウの視線が煩わしくて、忌まわしい。
なのに、なんの言葉も思い浮かばず、シェスはじっとノウをみつめることしかできなかった。
 
 
 
――ごはん、すくないし、お菓子なんてぜんぜんたべれないけど。みんなで食べるご飯っておいしいよな。
 
 
 
(――ああ)
 
 
 
――ええ、そうですね。美味しいです!
 
 
 
(――なんで今さら)
 
 
 
――そうですとも!かわいい子供達との食事は何にも代えがたい時間ですな!
 
 
 
(――今さら、思い出したくなかったことが、浮かんでくるんだ)
 
 
 
誰かと摂る食事が好きだった。
好きだったからこそ、胸がざわついて気分が悪くて吐きそうになる。
動きを止めたシェスをノウが不思議そうに見つめてくる。
 
 
「――じゃあ、こんなまずい飯じゃなくて、うまい飯つくれるようになれよ」
「……!……うん!!」
 
 
ノウが後片付けをしに、亭主と厨房の方へ消えていくのをぼんやりと見送る。
手放し難くて煩わしくて面倒なあの子供が、シェスは酷く恐ろしいと思った。
 
 
「……まずい、飯、ねぇ」
 
 
さっき食べた焦げたパンと崩れた目玉焼きに味がしないと鼻でせせら笑った直後に、焦げたパンのかさついた炭の味とくずれた卵の黄身のどろりとした食感と味覚がシェスの舌をザリザリと刺激して。
まずい、と思った瞬間ひっそりと息を呑んだのだ。
まずかった。まずかったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
ゴムを噛むような感触しか訴えてこなかったはずの自分の舌が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まずい、とそういったのだ。

 

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